旅心をくすぐる乗物
フェザークラフト(Fethercraft)
十数年前、妙高でスクール・ガイド業に就いて間もない頃にフェザークラフト社のカヤックに初めて試乗した。リジットカヤックに比べて別物の乗り味に驚いたことを今でも覚えている。水面の変化に合わせてカヤック全体がしなやかにたわんで馴染む感じ…。信頼性とフォルムの美しさはもちろん、畳んでバックパッキングも出来てしまえる。天候急変や予期せぬ怪我など、計画通りにすすまない海の旅で「エスケープ」を自己完結するには折り畳める利点はとても大きかった。そして分割払いで最初に手に入れたのはコーデュラ素材のKライト+。その瞬間、山と海の距離がぐっと近づいたような気がした。
今は履き込んだジーンズのように随分と色あせて味が出てしまったが、まだまだ現役の赤いKライト。電磁溶着ウレタン素材のスキン(船体布)に交換して見た目は新品同様にアップグレードする事も出来る。小さなカヤックにミニマムなキャンプ道具を詰め込んで、葉っぱの様にゆらゆらと波間を漂い、時にはバスや電車も利用すれば往路のみの旅も出来る。目的地や上陸地にとらわれない旅も好きで、手に入れてからは天気図に波や風の情報を得ながら、まるで登山に行く感覚で頻繁に気軽に海にも出かけるようになった。
フェザークラフト生みの親で親日派のカナダ人、ダグ・シンプソン氏。還暦だとは思えない軽い身のこなし。奥琵琶湖にて。
大型のセーリングキットをタンデム艇のK2に取付けた魅惑の図。乗ったら最後。長期の旅に出ずにはいられなくなる。一見ヨットの様でいて漕げるからやっぱりカヤックである。
そして7年程前、友人であり業界の先輩でもある笠原(
Cetus
)大瀬(
Granstream
)両氏と共にバンクーバーのフェザークラフト本社を訪ねて、製造過程を見学する機会を得た。作り手が見えたこのカヤックにますます信頼と愛着がわき、無性に長期の旅に出たくなった。積載能力の高いタイプ(K1)などは人が乗る部分を差っ引いても100ℓの装備や食材が前後に積める。縦走登山で使用するキャンプ装備をそのまま流用して防水バックに入れる。食事も山と同様基本はシンプルだが、釣ったりしながら現地調達した新鮮なタンパク質を頂ける。酒は登山みたいに気にしないで積める。波の音を聞きながら小さな焚火を見つめて眠りにつく心地良さ。約10日間は水の補給程度で旅を続けることが出来た。何の届け出もいらないが、なかなか見つけてもられない。これぞ自己責任の旅…というのかもしれない。
重力をコントロールしてターンを楽しむスキーにはそこがバックカントリーでも多少のスポーツ性を意識してしまうが、シーカヤックに求め感じるものはまた違う。波長の長い「うねり」にも似た心地いいリズム・時間がスキー人生に与えた影響はとても大きい。カヤックを漕ぎながら遠くに海岸線、さらに遠くに水平線を臨んだとき、漁師でもないのに大海にポツリと浮かぶ自分の小ささが滑稽で面白い。時にカヤックは誰とつるむわけでもなく旅に出るのもまたいい。
08.11.21 記:久我


