Sarc : コラム

旅心をくすぐる乗物

フェザークラフト(Fethercraft)のこと

 15年程前だったか、ガイド会社で働き出して間もない頃にフェザークラフト社のフォールディングカヤックに初めて試乗しました。リジットカヤックしか乗った事がなかったので、別物の乗り味に驚いたことを今でも覚えています。
 水面変化に合わせてカヤックがしなやかにたわみ、水に馴染んで進む感じ…。スキー板で例えるならば深雪におけるフレックスの違いとでも言いましょうか。荒れた海での信頼性、フォルムの美しさ、自然のなかで主張しすぎないカラー、そして折り畳んでパッキングも出来てしまえる優れモノ。1人でも漕ぎに行く事を考えると天候急変や予期せぬ怪我など、計画通りすすまない海の旅で「エスケープ」を自己完結するためには折り畳める利点は重要でした。

 惚れ込んでようやく手に入れたのは最も小さなKライト(当時カフナは未発売)。厳選したキャンプ道具を詰め込んで、葉っぱの様にゆらゆらと波間を漂います。時にはバスや電車も利用して往路のみの旅も。目的地や上陸地にもとらわれず、天気図に波や風、国土地理院の地形図程度の情報で登山感覚で海に出かけるようになりました。
 私にとって山と海の距離を近づけてくれた小さなカヤックKライト。ひどい乗り方もした事がありましたが、10年以上経ってもフレームはびんびん。ただ、スキン(船体布)は履き込んだジーンズの様に「味」がでてきたので、2年前に縫い目のない電磁溶着ウレタン素材に交換しました。以前の船体布と比べてバウの形状がシャープになり、軽快さと直進性が増して感度最高!見事な変身を遂げました。
 最近ウィスパーばかりに乗って浮気していましたが、これから海でも川でも乗る機会が増えそうです。

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 フェザークラフト生みの親で親日派のカナダ人、ダグ・シンプソン氏。カサラノを操る姿は還暦だとは思えない軽い身のこなし。因みにダグもテレマーカーです。

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 サバニに精通した中村氏(沖縄カヤックセンター)製作のセーリングキットをタンデム艇のK2に取付けた魅惑の図。乗れば長期の旅に出ずにはいられなくなる。

 8年程前の冬だったか、友人であり業界の先輩でもある笠原( Cetus )大瀬( Granstream )両氏と共にバンクーバーのフェザークラフト本社を訪ねました。製造過程を見学してから、ダグ達とのツーリング。作り手が見えたこのカヤックにますます信頼と愛着がわき、帰国後はスキルアップとともに長期の旅を幾つも計画しました。積載能力の高いK1であれば合計100ℓもの装備や食材が積めます。Kライトのコンパクトなパッキングに慣れていれば容易です。縦走登山で使用する衣食住の装備をそのまま流用して防水バックに詰めます。食事は山同様基本はシンプルですが、釣ったりしながら現地調達した新鮮なタンパク質を頂けるし、お酒は余ったスペースに気にしないで積めます。
 波の音を聞きながら小さな焚火を見つめて飲んで眠りにつく心地良さ。初の長期1人旅となった場所は若狭から鳥取砂丘で、約2週間は水の補給程度でのんびり旅を続けることが出来ました。

 何の届け出もいらないが、なかなか見つけてもらえない海。「自己責任」の遊びと綺麗に言えるのか分かりませんが、山以上のパワーを持つ海での経験や技術、そして時間の使い方が私のスキー人生にじわりじわりと大きな影響を与えている様です。
 カヤックで大海にポツリと浮かんだ時、浜で停滞している時、静かな山の斜面に立ってターンをイメージする時…。時には誰とつるむわけでもなくひっそりと旅に出て、じーっとしてみるのはいいもんです。

記 久我博道